第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月16日(木) ホールB5(1)

画像診断 1

座長:川勝  忍(山形大学)

 

マルチスライスCTによるアルツハイマー型痴呆
診断へのアプローチ

木暮陽介,木村通宏,江渡  江,井関栄三,鈴木  賢

順天堂東京江東高齢者医療センター

UB2-25 

【目的】CTはMRIやSPECTに比べて,組織コントラストが低く,機能画像が得られない点で劣っており,画像診断のための研究が低迷している.しかし,マルチスライスCTは,従来のCTに比べて,検出器の多列化により同時に多数の薄いスライス厚の撮像が可能となった.本研究では,ヘリカルスキャンから得られる高画質任意断面像による画像所見および画像計測が,スクリーニング検査としてアルツハイマー型痴呆診断に有用であるかを検討した.

【方法】マルチスライスCTは,GE横河メディカルシステムズ社製,LightSpeed Ultra 8列を使用した.対象はNINCDS-ADRDA診断基準にて鑑別された,アルツハイマー型痴呆群15名(平均76.3歳)と非アルツハイマー型痴呆群15名(平均73.8歳)である.撮像条件においては,ファントムを用いて,画質・簡便性・再現性・被曝を考慮して最適な条件を検討した.画像計測の評価指標は,水平断像より1)側脳室下角横径%,2)側頭葉内側径%,3)鉤間距離%,矢状断像より4)側脳室体部面積mm2,冠状断像より5)側脳室体部角度°,6)鉤溝角度°の6つの指標にて検討した.

【倫理的配慮】撮像条件はファントムにて検討し,臨床に関わる諸条件の決定は,撮像済みの画像の後処理により行っている.使用した臨床データは,個人を特定できないよう配慮している.

【結果】撮像条件は管電圧:120 kV,スライス厚とヘリカルピッチ:1.25 mm/0.625,再構成間隔:0.63 mm(オーバラップ50%),再構成関数:Standard,線量:175 mAs(250 mA×0.7 sec)が最適であった.マルチスライスCTにおけるアルツハイマー型痴呆の画像所見としては,水平断像より,側脳室下角の拡大,側頭葉内側の萎縮が認められた.また,矢状断像では,側脳室体部の拡大,冠状断像では,側脳室体部の拡大と角度変化,海馬領域の萎縮と鉤溝角の変化が認められた.各評価指標値とアルツハイマー型痴呆・非アルツハイマー型痴呆との相関比は,1)0.20,2)−0.35,3)0.38,4)0.40,5)−0.76,6)0.66であった.冠状断像からの評価指標は,基準断面における誤差の影響も少なく,従来のCTから得られる水平断像より相関比が高い結果となった.

【考察】マルチスライスCTでは,後処理的に3軸校正を行うことにより,画像計測も良好な再現性をもって行うことができると考えられる.また,従来のCTと同様に,器質的疾患の除外などに加えて,更なる検査時間の短縮と形態画像の向上により,1検査でより多くの画像情報を得ることができる.本研究では,被曝に関してもヨーロッパでのCTガイドライン値を超えておらず,アルツハイマー型痴呆診断におけるスクリーニング検査としての有用性は高いものと考える.

 

アルツハイマー型痴呆の形態画像に基づく分類と
臨床症状との相関について検討

安谷屋亮太1),井関栄三1),村山憲男1),鈴木  賢1),木村通宏1),
江渡  江1),新井平伊2)

1) 順天堂東京江東高齢者医療センター,2) 順天堂大学医学部・精神医学

UB2-26 

【目的】アルツハイマー型痴呆は頭部CTやMRIなどの形態画像で,海馬・扁桃体の萎縮及び後部側頭・頭頂葉や前頭葉の萎縮を示すことが知られているが,萎縮の部位と程度は様々である.また,アルツハイマー型痴呆患者は進行性の認知機能障害に加え,しばしば妄想や易怒性,興奮,徘徊などのBPSDを伴うが,これらの出現パターンも一様ではない.今回,アルツハイマー型痴呆を形態画像に基づき分類し,臨床症状との相関の有無を検討した.

【方法】順天堂東京江東高齢者医療センターの入院患者のうち,アルツハイマー型痴呆と診断された72症例(平均年齢80.1歳)を対象とした.頭部MRIないしCT画像の冠状断面の特徴から,以下3型に分類した.@海馬型―海馬領域の萎縮が優位なもの,A穹窿部型―大脳穹窿部の萎縮が優位なもの,Bびまん型―全般性に萎縮しているもの,とし,さらに各々を萎縮の程度に応じて1〜3に分けた.また,全症例について,HDS-R,MMSE,CDR,ADLに加え,頭頂葉症状,BPSD,せん妄の有無を調べた.HDS-RとMMSEは,0〜4点をstageW,5〜14点をstageV,15〜19点をstageU,20点以上をstageTとし,stageWの症例は除外した.病期判定にはCDRを使用し,ADLはPSMS,BPSDはNPIを用いて評価した.頭頂葉症状は,MMSEの下位項目の得点から評価した.

【倫理的配慮】調査にあたり侵襲的な方法やアプローチはとらず,観察,家族や医療スタッフからの情報と,後方視的な調査に基づき過去のカルテ,看護記録を参照した.

【結果】stageWの13例を除く59例の内訳は,海馬型13例(平均年齢78.4歳),穹窿部型17例(79.7歳),びまん型29例(82.1歳)であった.3型で,発症年齢及び罹病期間に有意差を認めなかった.HDS-R(MMSE)の平均点数は海馬型,穹窿部型,びまん型で各々,10.1(12.4),12.2(16.3),11.0(14.8)であり,各型に有意差を認めなかった.CDRの平均点は2.3,2.2,2.0であり,各型間に有意差を認めなかった.ADL及びNPIスコアはびまん型で有意に高かったが,海馬型と穹窿部型に有意差は認めなかった.頭頂葉症状は各型間で有意差を認めなかった.海馬型でのせん妄の出現頻度は他の型より低かった.3型とも,1〜3の萎縮の程度と,HDS-R,MMSE,CDR,NPIの値に負の相関を認めた.

【考察】今回,アルツハイマー型痴呆を,形態画像の特徴から3型に分類し,臨床症状との相関を検討した.その結果,各型の認知機能には有意な差を認めなかったが,びまん型のNPIスコアが有意に高く,ADLスコアもびまん型で他の2型と比べて高かった.各型間に移行の可能性はあるものの,びまん型では,認知機能の重症度に関わらず,精神症状や行動異常の発現頻度が高く,ADLの低下を伴って,介護困難を生じやすいと考えられた.

 

アルツハイマー型痴呆患者における
精神症状と脳血管障害の関連

中島啓介1),高橋  恵1),大石  智1),後藤美野2),
江村  大1),新井久稔1),浦久保安輝子1),宮岡  等1)

1) 北里大学精神科学,2) 横浜市立芹香病院

UB2-27

【目的】痴呆性疾患患者は認知記憶障害を中心とする中心症状,および,抑うつ,不安,妄想など様々な精神症状を含む周辺症状を呈する.周辺症状は時に中心症状以上に本人家族の生活に大きな負担となることがあるが,どのような因子がその出現に関与しているのかは未だ明確ではない.そこで今回大学病院の老人外来で痴呆の鑑別診断を行った症例の中でアルツハイマー型痴呆患者を対象として,その脳血管障害の有無に着目し,その精神症状について検討する.

【方法】2002年9月から2005年2月までに北里大学東病院の痴呆性疾患鑑別外来を受診した患者のうち,アルツハイマー型痴呆患者(NINCDS-ADRDAの診断基準による)64名を対象とした.対象患者のうち,頭部MRI検査において脳血管障害が全くないか,大脳白質または基底核に3個以下のラクナ梗塞のみを認めるものを脳血管障害なし群(A群),それ以上の脳血管障害の所見があるものは脳血管障害合併群(V群)とした.痴呆の重症度をCDR,MMSEで,精神症状をBPRS,NPIにて評価した.A群とV群間の上記調査項目の差異をt検定またはχ2検定を用い解析した.

【倫理的配慮】本研究についての十分な説明を本人および保護者に相当する家族に行い,両者の調査への協力の同意が文書にて明確に得られた症例のみを調査対象とした.

【結果】対象患者64名中,数個以上のラクナ梗塞などの脳血管性病変を合併するもの(V群)は33名に上った.平均年齢A群70.3歳,V群76.2歳,経過年数A群1.9年,V群2.4年,重症度(MMSE)A群18.9点,V群16.6点で,V群で年齢が高く,経過年数が長く,MMSE得点が低い傾向にあったが,有意差(p<0.05)は年齢にのみに認められた.対象患者全体の精神症状として頻度の高かったものは,BPRSの失見当(85.9%),概念の統合失調(50.0%),運動減退(45.3%),情動の平板化(34.4%),不安(29.7%),抑うつ気分・緊張(26.6%),NPIの無関心(59.4%),不安(39.1%),易刺激性(35.9%),うつ(35.5%),興奮(31.3%),異常行動(29.7%),妄想(25.0%)であった.BPRSとNPIの精神症状に関してA群とV群において有意差が認められたのはBPRSの概念の統合失調のみで,その他の精神症状では有意な差は認められなかった.

【考察】海外の文献では脳血管性痴呆の方がADよりも抑うつ症状を呈することが多いとの報告もあるが,今回の調査ではA群,V群の両群間で有意差は認められなかった.従って抑うつの出現には脳血管障害以外の因子の関与が推測される.概念の統合失調は理解判断力の低下を表し,V群に有意に多い結果となった.これは,有意差は認めないもののV群の方がMMSEの評点が低い傾向にあり,脳血管障害の合併でさらに認知機能が低下していることを反映していると考えられる.

 

頭部CT/MRIにて頭蓋円蓋部にクモ膜下腔に
局所的拡大を認めた8例

前嶋  仁1),木村通宏2),江渡  江2),井関栄三2),新井平伊2)

1) 順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院精神神経科
2) 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック

UB2-28

【はじめに】高齢者の精神科臨床において,頭部CT/MRIなどの画像所見は,痴呆性疾患等の脳器質性障害の診断はもとより,うつ病や妄想性障害においても脳器質性障害の除外に有用である.今回我々は,頭蓋円蓋部に局所的なクモ膜下腔の拡大が認められて,精神症状への関与の有無を検討した8例を経験し,画像を中心とした解剖学的,症候学的考察を加えて報告する.

【症例提示】症例は平成14年から順天堂東京江東高齢者医療センター・メンタルクリニックで治療を行った500名の患者の中で,初診時または入院時に施行したCT/MRI検査において頭蓋円蓋部に局所的なクモ膜下腔の拡大が認められた8例である.当初,脳実質の萎縮とも考えられたが,所見を有する領域の周囲には脳溝の狭小化が認められていることから,髄液の貯留によりクモ膜下腔が拡大し,周囲組織が圧排されている可能性が高いと考えられた.この様な所見は,一部の正常圧水頭症(以下NPH)において認められることがあるため,脳室拡大が目立つ症例は除外した.クモ膜下腔の拡大部位は,頭頂葉3例,中心溝近傍2例,前頭葉と頭頂葉2例,側頭葉と頭頂葉1例にみられた.症例の内訳は男性3名,女性5名,年齢は74歳から87歳で平均73.1歳であった.各症例における生活史,家族歴には共通した特記事項はなく,既往歴に脳血管性障害が2例,慢性硬膜下水腫が1例認めた以外には過去に脳器質性障害を指摘されたことはない.
ICD-10を用いた診断では,Alzheimer病の痴呆1例,血管性痴呆1例,混合型痴呆2例,うつ病エピソード2例,妄想性障害1例,せん妄1例であった.主な症状としては記銘力障害が3例,妄想状態が4例,情動不安定が4例,せん妄が3例,幻視が2例にみられたが,すべての症例に共通する特異的症状は認められなかった.各症例において,当院での治療開始時より上記画像所見を認める以外は,原疾患に特徴的な症状を呈し,その転帰も原疾患の特徴に順ずるものであった.その後も画像所見上に顕著な変化はなく経過している.

【倫理的配慮】本症例は初診時または入院時に施行された,治療上必要な検査の結果に基づいており,研究目的には新たな検査を行っていない.

【考察】本症例には局所的クモ膜下腔拡大が認められた.一部のNPHに類似した所見が認められるが本症例では側脳室の拡大は伴っておらず,臨床症状においてもNPHを示唆する所見は得られなかった.また,これらの所見が特定の精神症状もしくは原疾患の経過に影響していることは現時点において,否定的である.今後の神経病理学的検索を含めたさらなる検討が必要であると思われる.