第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−90

塩酸ドネペジルの痴呆性変性疾患における錐体外路症状の惹起作用

横浜市立大学医学部精神医学教室・東京慈恵会医科大学付属病院看護部
         丸井和美
 横浜市立大学医学部精神医学教室
井関栄三 松本俊彦 小野瀬雅也
河西千秋 小阪憲司
【はじめに】塩酸ドネペジルはコリンエステラーゼ阻害作用を有し,アルツハイマー病(AD)の認知機能の改善が期待されている.最近,パーキンソン病(PD)やレビー小体型痴呆(DLB)の精神症状や認知機能の改善に塩酸ドネペジルが有効であるとの報告がある.一方,塩酸ドネペジルによる神経系の副作用として錐体外路症状の悪化が報告されている.今回われわれは,AD3例,ADを疑われたPD 1例,DLB 2例に塩酸ドネペジルを投与した結果,おのおのに特徴的な錐体路症状の惹起を認めたので報告する.


【症例】症例1:70歳 女性 62歳発症.63歳ADT期としてアニラセタム600 mg開始.67歳塩酸ドネペジル3 mg開始,2週後5 mgに増量.投与後16か月,寡動・手指振戦・小刻み歩行が出現.投与後27か月,四肢筋強剛,塩酸ドネペジル中止.70歳現在,ADU末期およびPDと診断.
症例2:84歳 男性 81歳発症.82歳ADT期として塩酸ドネペジル3 mg開始,2週後5 mgに増量.投与後12か月,寡動・小刻み歩行・手指振戦.投与後14か月,上肢筋強剛,塩酸ドネペジル中止.84歳現在,ADU期およびPDと診断.
症例3:82歳 女性 78歳発症.79歳ADT期としてアニラセタム600 mg,塩酸ドネペジル3 mg開始,2週後5 mgに増量.投与後7か月,寡動・易転倒性.投与後16か月,歩行障害・構音障害,塩酸ドネペジル中止.82歳現在,ADU期およびPDと診断.
症例4:69歳 男性 66歳ADT期を疑い,アニラセタム600 mg,塩酸ドネペジル3 mg投与開始,2週間後5 mgに増量.投与1か月後,寡動・構音障害.投与3か月後,頸部ジストニア,塩酸ドネペジル中止.69歳現在,PDと診断.
症例5:72歳 女性 69歳発症.70歳DLBを疑い,塩酸ドネペジル3 mg開始,3日後5 mgに増量.翌日より血圧の変動,四肢筋強剛・嚥下障害,塩酸ドネペジル中止後3日で改善.72歳現在,DLBと診断.
症例6:78歳 女性 77歳発症,DLBを疑い塩酸ドネペジル3 mg投与開始.3日後には血圧上昇,四肢筋強剛・起立不可,塩酸ドネペジル中止後4日で改善.78歳現在,DLBと診断.


【考察】AD 3例は,塩酸ドネペジル投与後,16,12,^n7か月後に錐体外路症状が顕在化し,中止後もパーキンソニスムは増悪,PDを伴うADと診断されている.ADを疑われたPD 1例は,塩酸ドネペジル投与後1〜3か月に錐体外路症状が顕在化し,中止後もパーキンソニスムは増悪している.DLB 2例は,塩酸ドネペジル投与後数日以内に急激な錐体外路症状と血圧変動などの自律神経症状が出現し,中止後数日で改善したが,パーキンソニスムは増悪している.AD例とADを疑われたPD例は,塩酸ドネペジルにより潜在性のPDが顕在化した可能性が示唆される.DLB例の一過性の錐体外路症状の増悪は,塩酸ドネペジルがドーパミンとアセチルコリンのインバランスをきたしたと考えられるが,パーキンソニスムを促進した可能性も示唆される.

2003/06/18


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