第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−88

ドネペジル投与法の一考察

福島県立医科大学医学部神経精神医学講座
小林直人 片山佳澄 黒須貞利
柳沼雅枝 田子久夫 丹羽真一
 近年,超高齢社会を迎えると同時に年々痴呆患者が増加し,このことが21世紀のわが国の社会問題のひとつとしてとりあげられている.一方で,あらたな検査法の開発と診断技術の向上により,早期の痴呆診断が可能となり,さらなる進歩が期待されている.
 痴呆の治療に関していえば,数年前までは,痴呆の中核症状といわれる認知機能障害はともかく,不眠,不安・焦躁,幻覚・妄想,せん妄などの中核症状から二次的に出現する「痴呆の行動心理学的兆候」Behav-ioral and Psychological Symptoms of Dementia ; BPSDを薬物治療や心理社会的治療により対処することに偏っていた.抗痴呆薬としては多くの薬剤が臨床的に試みられてきたが,現在のところその効果が国際的にも承認されているのはアセチルコリンテステラーゼ阻害剤のみである.すでに海外では,タクリンをはじめドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンなど,多くのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が幅広く使用され,痴呆の中核症状に対する治療がさかんに行われてきた.これに対し,わが国では1999年11月にドネペジル(アリセプト<MG CHAR="○","R" SIZE=70.0>)がようやく認可され,現時点で唯一のアルツハイマー病に対する治療薬として臨床の場で多用されつつある.


 高齢者の薬物療法で留意しなければならない点は,老化に伴う薬物代謝の変化や薬効の変化のために薬物効果が増大し,思わぬ有害事象を引き起こしかねないということである.アセチルコリンエステラーゼ阻害剤も老化により,薬物効果が増大する薬物のひとつとして知られている.われわれはこれらのことを考慮し,アリセプト<MG CHAR="○","R" SIZE=70.0>の投与法について検討してみた.アリセプト<MG CHAR="○","R" SIZE=70.0>の一般的な副作用としては,嘔気,嘔吐,食欲不振といった消化器症状が最も多く報告されており,副作用出現が高齢者のQOLを損ねることにもなる.一般的なアリセプト<MG CHAR="○","R" SIZE=70.0>の投与法は3 mgから開始し,14日以内に5 mgに切り替えることが推奨されている.われわれは,まず投与開始量を細粒1 mgと設定し,4〜5日ごとに1 mgずつ漸増し,14日目に5 mgの錠剤に切り替えるという処方を行った.また,高齢者の場合,薬物の追加処方に過敏に反応し,プラセボ薬に対しても副作用を訴える場合が報告されている.このため,投与前に「この飲み方だと副作用がより少ない」と患者に安心感を与えるような支持的な説明をプリントを用いて追加して行った.平均年齢77歳の軽度から重度の14例のアルツハイマー病患者にこれらの方法で投与を行ったが,患者本人,介護者から消化器症状をはじめとする副作用は聞かれなかった.
 今回は比較試験を行っていないために明確な結論はできないが,われわれが行った投与法は,高齢者の薬物動態や薬効の変化を考慮し,さらに患者の心理的安定をはかるという点からも有効な投与法のひとつであると推測できる.

2003/06/18


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