第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−85

アルツハイマー病(AD)患者に対するグループ回想法の長期効果の検討

大阪市立弘済院附属病院
川端幸一 中西亜紀 河原田洋次郎
 大阪市立大学医学部附属病院老年内科・神経内科
        三木隆已
 大阪市立大学医学部神経精神医学教室
        切池信夫
【目的】痴呆性疾患患者に対して,薬物療法のみではなく,リハビリテーションとして音楽療法・グループ回想法などが注目され導入されてきている.われわれは外来患者に対してグループ回想法を導入し,痴呆性疾患患者の治療に取り組んできており,今回,AD患者に対するグループ回想法の長期効果を検討した.


【対象・方法】NINCDS-ADRDAの診断基準によりADと診断され,塩酸ドネペジルの内服中の患者11名を対象とし,4名(男性1名,女性3名)の回想法施行群と,7名(男性2名,女性5名)の対照群に分け,経過を観察した.グループ回想法は2週間ごとに1回1時間施行し,HDS-RとMMSEを開始前と6か月ごとに18か月後まで施行した.それぞれの得点を各群で比較し,下位項目について,見当識,単語遅延再生,7シリーズ,5つの物品記憶,語想起について比較した.


【結果】HDS-Rは開始前と18か月後では回想法施行群で15.3±4.1(mean±SD)から15.8±2.5と変化を示さなかったが,対照群では18.4±3.6から14.6±5.9と減少を示し,対照群より回想法施行群でHDS-Rが保たれていた(p<0.05).MMSEは回想法施行群で21.0±4.1から20.0±2.7とほとんど変化を示さず,対照群で18.9±3.1から15.3±3.9と変化するも,両群の変化に差は認めなかった.HDS-RとMMSEの下位項目については,見当識,単語遅延再生,7シリーズ,5つの物品記憶については両群で18か月後の変化には有意差は認めなかった.語想起については18か月後に対照群で-0.7±1.3と増悪しているのに対し,回想法施行群では2.0±1.8と改善し,両群で差を認めた(p<0.05).


【考察】グループ回想法の18か月後の長期効果を検討した.HDS-Rは回想法施行群で保たれ,MMSEは対照群と差は認めなかった.下位項目の変化を検討したところ,語想起が対照群と回想法施行群で差が認められ,その他の項目については対照群と有意差は認めなかった.グループ回想法により,見当識,記憶などの検査については効果が認められず,語想起が維持されることによりHDS-Rが回想法施行群で悪化が抑制されると考えられた.語想起は言語の流暢性を反映し,前頭葉障害などで低下するといわれており,それらの機能をグループ回想法により賦活化された可能性が考えられる.塩酸ドネペジル単独での治療よりも,グループ回想法を同時に施行することにより進行が抑制され,よりよい治療効果が得られるものと考えられる.グループ回想法を併用することにより18か月後の語想起が維持され,HDS-Rの得点が対照群より保たれる.

2003/06/18


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