第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−82

Milnacipranが有効であった抑うつ状態を伴ったアルツハイマー型痴呆の4例

きのこエスポアール病院 藤沢嘉勝 佐々木健
 岡山大学大学院医歯学総合研究科精神神経病態学
               横田 修 中田謙二
【はじめに】日常,慣用されているDSM-Wなどのアルツハイマー型痴呆の診断基準のなかには必ず,意識障害,うつ病が除外項目として記載されている.また,うつ状態を示した高齢者が一定時間を経て,痴呆状態に移行しやすいことや,痴呆がうつ状態を伴いやすいこともよく知られている.事実,筆者らの経験からも,アルツハイマー型痴呆や脳血管性痴呆などの初期にはうつ状態を呈することから,うつ病との鑑別に苦慮することが多い.
 痴呆性高齢者のうつ状態治療は,いままでやむをえず,三環系,四環系,スルピリドを使用していたが,これらの薬剤は効果の発現するまえに副作用が出現し投与を中止するケースが多く,軽症のうつ状態の場合,積極的な治療を控えていたのが実情であった.しかし最近,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),選択的セロトニン,ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった副作用の少ない抗うつ剤が登場し高齢者にも安心して使用できるようになった.今回,われわれは当院外来における痴呆性高齢者のなかから,塩酸ミルナシプラン(SNRI)によく反応した典型的なアルツハイマー型痴呆の4例を呈示し,その共通点(特徴)を探し出したい.


【症例呈示】
症例1 81歳,女性 自発性低下を有する初期アルツハイマー型痴呆
主訴:物忘れ,被害妄想,やる気が出ない,何をするのも大儀.
経過:milnacipran 30 mg投与後,約4週で症状軽快した.
症例2 65歳,女性 自発性低下を呈した中期アルツハイマー型痴呆の進行例
主訴:活気がない,笑顔がない.
経過:milnacipran 75 mg投与後,約4週で症状軽快した.
症例3 80歳,女性 経過中に身体的不定愁訴が出現したアルツハイマー型痴呆
主訴:物忘れ,被害妄想,意欲低下,不定愁訴(体調がよくない).
経過:milnacipran 75 mg投与後,約1か月後ぐらいから不定愁訴消失した.
症例4 79歳,女性 不定愁訴を主訴として来院したアルツハイマー型痴呆
主訴:不定愁訴(ふらつく,頭がさえない),物忘れ,便秘.
経過:milnacipran 50 mg投与後,約2週で症状軽快した.


【まとめ】今回紹介した4例は,うつ状態を伴ったアルツハイマー型痴呆に対しmilnacipranを投与したところ,副作用に苦慮することなく症状の改善をみた代表的な症例である.ここで4症例のHDS-Rに注目すると,全例で1点〜6点の改善を認め,とくに症例1は13点→19点,症例3は,14点→18点と大幅に改善している.下位項目については,全例とも5つの物品記銘が1点,著明に改善した2例については,さらに言語の流暢性(野菜の名前)で,3点,5点の改善をみた.今回,呈示した4症例の特徴と病像の共通点を探し出すと,経過中に徐々に自発性が低下し,自閉的になったり,また疲れる,体がだるい,頭が重い,食欲が低下したなどの身体的な不定愁訴が出現してきている場合が多い.milnacipranは,比較的副作用が少なく,高齢者にも安心して使用できることから,標的症状を定めて投与すれば,アルツハイマー型痴呆におけるうつ状態に対して効果が期待できると考えられる.

2003/06/18


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