第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−81

老人精神科病棟における芳香療法(アロマセラピー)の効果に関する研究

東京都多摩老人医療センター
石束嘉和 道下 聡 中村 聡
竹林裕直 吉村祐子 野村さち
【目的】老人精神科病棟に入院する痴呆性疾患患者の多くは,興奮などにより家庭等での介護が困難なことから入院に至った者である.治療手段としては鎮静剤により鎮静をはかることが多いが,過鎮静によるADLの低下などの有害事象発生の可能性がある.本研究の目的は痴呆性老人にアロマセラピー(芳香療法)を用い,鎮静効果を得ることができるかを確認することにある.本研究は多摩老人医療センター倫理委員会の承認を得た.


【対象と方法】
対象:精神科病棟全体を一括して対象とし,病棟内に芳香発散中である旨掲示して患者・家族への周知徹底をはかった.
方法:1か月間病棟スタッフが鎮静系のラベンダーの精油(エッセンシャルオイル)をしみ込ませたガーゼなどを身につけ,スタッフ自身が芳香発生源となり病棟に芳香を漂わせた.
効果判定の方法(その1):芳香に鎮静作用があるならば,芳香療法期間中の病棟患者全体の鎮静系向精神薬処方量は減少するはずという仮説を立てた.芳香療法期間と期間外の2つの時期の向精神薬処方量を調べて多寡を比較した.対象薬剤は,抗精神病薬(クロルプロマジン等),抗不安薬(ジアゼパム等),睡眠導入薬(フルニトラゼパム等),ミアンセリン(抗うつ薬であるが,軽い催眠作用を利用して睡眠導入剤的な使用をしている)とした.
効果判定の方法(その2):病棟の印象や自身の疲労感などの主観的な面を病棟看護スタッフが評価した.評価方法は,毎回の日勤・準夜勤・深夜勤の終了時に,両脇に相異なる形容詞対を配した10 cmの直線に印をつけるヴィジュアル・アナログ・スケール法を用いた.形容詞対は病棟評価(病棟は騒々しかった-静かだった等)と自己評価(疲れている-元気だ等)の簡単なものとした.


【結果】
1.向精神薬処方量を用いた方法
 処方量変化を示す(単位 mg)(芳香あり→芳香なし).抗精神病薬(ハロペリドール換算)1184.4→2224.2,抗不安薬(ロラゼパム換算)780.0→1028.6,睡眠導入薬(フルニトラゼパム換算)795.1→1243.1,ミアンセリン10120→14730.このように,芳香を併用した期間は向精神薬の処方量が少なかった.
2.主観的評価を用いた方法
 日勤では,病棟評価・自己評価共に芳香の有無では大きな差はなかった.準夜勤では,病棟評価・自己評価共に芳香のあるほうが良好な結果が得られた.深夜勤では,病棟評価では芳香のあるほうが良好な結果であったが,自己評価では両者で差はなかった.芳香を併用した期間は全体として主観的評価が良かった.


【まとめ】芳香療法は昔から行われている療法でさまざまな効用がうたわれている.なかでも鎮静作用は代表的な効能のひとつである.向精神薬に芳香療法を併用することにより薬の使用量を減少させることができれば,薬の副作用軽減に寄与すると考えられる.
 今回は病棟全体の鎮静系向精神薬の処方量に着目した.その結果,調査したすべての系統の向精神薬で芳香療法期間中の処方量が減少した.
 病棟看護スタッフによる主観的評価のの結果は,芳香療法期間中のほうがおおむねよい評価を得た.
 芳香を使用することにより全体として病棟が落ち着き,向精神薬の使用を減少させうることが本研究により示唆された.

2003/06/18


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