第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−79

痴呆性老人の問題行動に対する薬物必要量の検討;琵琶湖病院老人性痴呆疾患治療病棟において

医療法人明和会琵琶湖病院
松田桜子 加藤 明 石田展弥
    瀬田川病院 宮川正治
 滋賀医科大学精神医学講座
          青木浄亮 山田尚登
【はじめに】介護保険が施行されて3年になり,痴呆性老人のほとんどはその治療,介護,施設の入所などで何らかの介護保険システムに関係するようになってきた.このなかで老人性痴呆疾患治療病棟への入院依頼の多くは,不穏,攻撃,興奮等の問題行動を示す老人となっている.従来,攻撃性に関しては向精神薬の投与がなされることが多かったが,高齢ゆえにその副作用が問題となってきた.当院では,原則として入院して後しばらくの間,薬剤を投与せずに経過をみることを方針にしている.今回は入院後の向精神薬投与状況に関するわれわれの経験について報告する.


【対象】琵琶湖病院老人性痴呆疾患治療病棟に平成13年4月以降15年2月までにあらたに入院した全56人を対象にした.男性28人,女性28人と男女同数であった.


【結果】入院した56人のうち,主たる問題行動・精神症状が不穏,攻撃性であったものは38人と約7割を占めた.その38人のなかで,向精神薬を使用せずに介護可能に改善したのは16人(42%)であった.一方,22人(58%)は,薬剤なしでは介護困難であり,リスペリドンを中心とした向精神薬を処方した.リスペリドンを処方した17人のうち,13人(75%)はリスペリドン1 mg以下の用量で介護可能となった.最高用量は2 mgであった.全体でみると,56人の半数の28人が向精神薬を使わなかった.


【考察】老人では向精神薬による歩行能力の低下,嚥下能力の低下が出現しやすい.そのため,可能なかぎり少量の向精神薬で治療することが望ましい.今回,われわれの病棟で約半数の人が向精神薬の投与を必要とせず治療を行えた理由として,患者に対する対応などのケアの工夫,毎日3回行う生活療法(生活技能訓練)などが有効であったのかもしれない.痴呆性老人の治療にはケアの能力の向上が前提であり,そのうえで少量の向精神薬が十分な臨床効果を有するものと考えられた.

2003/06/18


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