第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−77

軽度認知障害とアルツハイマー病患者におけるWechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)

吉岡リハビリテーションクリニック
松岡恵子 宇野正威
【目的】ものわすれ外来は,もの忘れに気づいた患者や家族がはじめて訪れることが多い.よって,痴呆の有無や程度について正確な評価・診断を行うことが重要な役割のひとつである.吉岡リハビリテーションクリニック・ものわすれ外来では,専門の職員により心理検査を行い診断および経過の評価を行っている.ここでは,痴呆の診断とWechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)の検査結果との関連について報告する.


【対象と方法】本報告の対象者は当クリニックものわすれ外来の通院患者である.もの忘れの程度を評価するためにWMS-Rを受けた患者は総数で37名であった.介護者からの詳細な情報や主治医による継続的な面接などから,主治医が診断を行った.具体的には,もの忘れのエピソードがあっても,それが痴呆に結びついていないと考えられた患者6名は,良性もの忘れ群(Benign Forgetfulness : BF)と診断した.軽度の痴呆の疑いであるが,社会的自立が比較的保たれており,Mini-Mental State Examination(MMSE)得点が25点以上の患者6名は軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)と診断した.また,アルツハイマー病であると診断された患者のうち,MMSE>20である患者13名をmild AD群,20点未満である患者6名をmoderate AD群とした.WMS-Rの項目のうち,今回の分析に加えたものは,「数唱(順)」「数唱(逆)」「視覚性記憶範囲(順)」「視覚性記憶範囲(逆)」「論理的記憶(直後)」「論理的記憶(遅延)」「視覚性再生(直後)」「視覚性再生(遅延)」の素点である.一元配置分散分析を用いて,これらの項目の点数に群差があるか検討した.また,Sheffe,s Testにより,4群におけるその後の検定を行った.


【結果】「論理的記憶(直後)」(F=14.6),「論理的記憶(遅延)」(F=26.0)ではいずれも,moderate AD群,mild AD群,MCI群でBF群よりも有意に低かった.「視覚性再生(直後)」(F=10.8)ではmoderate AD群がMCI群およびBF群より低く,mild AD群がBF群よりも低かった.また,「視覚性再生(遅延)」(F=30.9)では,moderate AD群とmild AD群がMCI群より低く,MCI群はBF群よりも低かった.一方,「数唱(順)」「数唱(逆)」「視覚性記憶範囲(順)」「視覚性記憶範囲(逆)」では4群間に有意差はみられなかった.


【考察】MCI群の患者では,「論理的記憶(直後)」「論理的記憶(遅延)」において各AD群と同等に低下している一方で,「視覚性再生(直後)」「視覚性再生(遅延)」での低下はゆるやかであった.よって,MCI群における記憶障害は論理的記憶においてより明らかであったといえる.一方,注意・集中力を評価する「数唱」「視覚性記憶範囲」においては4群に差がみられなかったことから,これらの能力はADの中等度まで保持されると考えられた.

2003/06/18


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