第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−76

日本語版MMSEにおけるSerial 7,sの代替問題についての検討;単語逆唱と数字逆唱を用いて

藍野病院臨床心理 小海宏之
藍野病院精神科 東真一郎
【目的】Mini-Mental State Examination(MMSE)は,Folsteinら(1975)によって考案された臨床的有用性の高い認知機能検査である.そして,MMSEの検査項目には「記銘」の次に,「注意と計算」としてのSerial 7,sがあり,その次に「再生」がある.したがって,Serial 7,sにおける早い段階での無答および誤答の場合は,その後の遅延再生が無効になる.そこで,遅延再生を有効にするために,Serial 7,sには代替問題の単語逆唱がある.しかし,原版も含めた日本語版のいずれも,Serial 7,sと単語逆唱との相関関係については,未検討なのが現状である.さらに,臨床現場においては,Serial 7,sの代替問題として単語逆唱はむずかしすぎるために,数字逆唱を用いるのが適切という意見も散見されるが,この点についてはいまだ実証されていないのが現状である.そこで今回は,MMSEのSerial 7,sにおける代替問題として単語逆唱と数字逆唱を用い,それぞれの相関関係を数量的に明らかにすることにより,日本語版MMSEにおけるSerial 7,sの代替問題としてどちらが有用かについて検討する.


【対象と方法】対象は,DSM-Wによりアルツハイマー型痴呆と診断された老人性痴呆疾患療養病棟に入院中の患者119名(男性31名,女性88名,平均年齢79.3±9.1歳)である.方法は,MMSEを実施する際,Serial 7,sの後に言語逆唱と数字逆唱の両方を含めて実施した.また,単語逆唱の採点基準は北村(1991)の方法により,正しい位置にある文字の数を得点とした.数字逆唱は日本版WAIS-R成人知能検査法(1990)における第1系列の問題である2-4,6-2-9,3-2-7-9,1-5-2-8-6を採用し,採点基準は,5桁5点,4桁4点,3桁3点,2桁2点とし,2桁については「4」だけ答えた場合は1点,無答および誤答の場合は0点と評価した.さらに,結果の分析にあたって各変数の得点分布は偏りが認められたためにノンパラメトリック検定により,Serial 7,sと単語逆唱および数字逆唱との関連性を検討した.なお,検査の施行にあたっては患者および家族に趣旨の説明がなされ了解を得た.


【結果と考察】統計分析の結果,Serial 7,sと単語逆唱の順位相関係数は0.46(p<0.01)で「中程度の相関」が認められ,Serial 7,sと数字逆唱の順位相関係数は0.71(p<0.01)で「高い相関」が認められた.また,MMSEの総得点をもとにしたGP分析によるc2値は,Serial 7,s 46.3(p<0.01),単語逆唱22.6(p<0.01),数字逆唱46.2(p<0.01)であった.さらに,Mann-Whitney検定およびBonferroniの修正(有意水準=0.05/3≒0.167)による多重比較では,Serial 7,sと単語逆唱および数字逆唱と単語逆唱には有意差が認められたが(p<0.167),Serial 7,sと数字逆唱には有意差が認められなかった(p>0.167).したがって,日本語版MMSEにおけるSerial 7,sの代替問題としては,単語逆唱よりも数字逆唱を採用したほうが有用であるということが数量的に明らかとなった.今回の結果より,Serial 7,sと数字逆唱は同じ数的処理能力を測定しているが,単語逆唱はSerial 7,sと異なる言語的処理能力を測定していると推測され,測定される精神機能の相違が相関値の差になったと考えられる.

2003/06/18


BACK