第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−75

痴呆性老人における行動障害の定量評価の試み−第2報

駒木野病院心理科 若松直樹
 昭和大学医学部精神神経科 三村 將
     浴風会病院精神科 鈴木由貴
      駒木野病院内科 田中かつら
   駒木野病院精神神経科 大野玲子
 慶應義塾大学医学部精神神経科
加藤元一郎 鹿島晴雄
【はじめに】昨年の本学会においてわれわれは,リストバンド型の行動量記録機器であるActiTrac(IM Systems社)を用い,痴呆性老人の行動量の定量的評価を試み,入院加療の効果と思われる夜間帯における行動量の有意な低下を報告した.痴呆性老人における徘徊・不安焦燥・易怒・興奮といった周辺症状は,記憶障害や失見当などの中核症状以上に,治療や介護面で大きな問題となる.しかしながら,周辺症状を客観的な指標を用いて的確に定量評価することには困難が伴う.今回われわれは,ActiTracにより行動量の定量的な評価を行った症例数をさらに増やすとともに,ActiTracにより定量した行動量とBehavioral Pathology in Alzheimer,s Disease Rating Scale(Reisberg B,Borenstein J,Salob SP,Ferris SH,Franssen E,Georgotas A,1987,以下Behave-AD)により尺度評価した行動障害との関連について検討したので報告する.


【方法】対象は痴呆性疾患治療専門病棟に入院中の老人性痴呆患者18例(男性8例-平均77.3歳,女性10例-平均79.8歳).臨床診断はアルツハイマー型痴呆12例,脳血管性痴呆5例,アルコール性痴呆1例であった.いずれも入院後,抗痴呆薬ないし抗精神病薬単剤による薬物療法を施行された.投与薬物の内訳は塩酸ドネペジル5 mg/4例,塩酸チアプリド50-200 mg/11例,リスペリドン1 mg/1例,他剤2例であった.全例で入院2日後(入院時)および1か月後にActiTracを24時間以上連続装着し,行動量を測定した.基礎検査としてBehave-ADおよびMMSEを実施した.入院時の平均Behave-AD総得点は15.1点,入院時平均MMSEは12.8点であった.なお本検討では,患者ないし家族に実施の説明をし,了解を得た.


【結果】深夜,朝,昼,夕の4つの時間区分に分けた18例全体のActiTrac行動量を入院時→1か月後で示す:0時−6時9.3→3.7,6時−12時11.6→11.3,12時−18時13.9→13.2,18時−24時15.2→6.2.18時から24時および翌0時から6時の行動量は有意に低下していた(それぞれp<.01,p<.05).また,Behave-ADのNo.13(徘徊)からNo.19(昼間・夜間の障害),の平均部分得点も入院時の8.6点→1か月後の3.8点と有意に低下しており(p<.01),さらにこのBehave-ADの改善は18時から翌6時までの夕方-深夜帯のActiTrac行動量の低下(12.3→4.9,p<.01)と相関を認めた(r=.58,p<.05).日中(6時−18時)のActiTrac行動量は治療の前後で差は認めなかった.


【考察】痴呆性老人の行動障害は入院後1か月間の薬物療法により改善傾向を認めたが,この改善傾向の指標としてActiTracを用いた行動量の定量評価が有用であることが示唆された.また,ActiTracで定量化された行動指標はBehave-ADによる行動の評価尺度と関連することが示された.

2003/06/18


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