第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−74

痴呆性高齢者に対する回想法の効果;バウムテストによる評価の可能性

秋津鴻池病院臨床心理 馬場香絵
  特別養護老人ホーム国見苑 柴田優子
     秋津鴻池病院精神科 松本寛史 平井基陽
 奈良県立医科大学精神医学教室
川端洋子 中村 祐
【目的】回想法グループの治療目的は回想を通じての情動の活性化や対人交流の促進である(松田ら,2002)が,認知面についての評価法に比べ,情動面についての評価法はいまだ確立していない.
 本研究では情動面の評価に関し,身体的および精神的な負担が比較的少ない心理検査であるバウムテストを用いた.痴呆は軽度であるが対人交流の促進にまで至らなかったAグループと,軽度から中等度の痴呆であるが対人交流が活発化し,日常生活まで般化したBグループについて介入前後の変化を比較し,バウムテストによる情動面の評価の可能性について考察する.


【方法】参加者は特別養護老人ホームに入所する女性で,Aグループは69歳から92歳(平均80.3歳)までの計7名,Bグループは年齢79歳から92歳(平均86.0歳)までの計6名(両グループともに1名は身体状況悪化などにより中止),開始前のMMSEの平均値はAグループで26.2(24〜30)点,Bグループで17.6(11〜24)点であった.スタッフは介護職,医師,臨床心理士各1名の計3名で,回想法グループは週1回1時間計12回,施設内で実施した.
 評価尺度は,認知面(1)Mini-Mental State Examination(MMSE),(2)Alzheimer,s Disease Assessment Scale(ADAS)の項目1(単語再生)と項目10(単語再認),情動および対人交流流面(3)東大式観察評価スケール,(4)バウムテスト,行動面(5)日本版Physical Self-Maintenance Scale(PSMS)の問題行動評価尺度(TBS),介護負担度(ZBI)を使用した.
 なお,回想法グループへの参加については口頭で説明のうえ,文書にて同意を得た.


【結果と考察】MMSE得点の平均値はAグループでは26.2から27.3点,Bグループでは17.6から18.4点とほとんど変化しなかった.ADASの項目についてはグループ間でやや異なる傾向がみられたが,Aグループでは介入前の得点が高く天井効果が働いたと考えられる.したがって,両グループとも認知面では維持傾向を示し,改善には至らなかったといえる.
 一方,バウムテストではAグループで変化が乏しかったのに対し,対人交流が活発化したBグループにおいて描画の発達レベルの上昇やサイズの増大といった大きな変化がみられた.
 このことから,回想法の効果は認知面よりも情動面で大きいこと,また痴呆性高齢者における情動および対人交流面の変化は,言語を媒介して測定するのはむずかしいが描画法のように非言語的で自由度の高い検査には顕著に現れる可能性が示された.

2003/06/18


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