第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−73

都市部に在住する70歳以上高齢者の抑うつ症状,うつ病性障害,自殺念慮

東北大学大学院医学系研究科精神神経学
粟田主一 関  徹 小泉弥生
松岡洋夫
 こだまホスピタル 佐藤宗一郎
 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
寶澤 篤 大森 芳 栗山進一
 東北大学大学院医学系研究科呼吸器病態学
          荒井啓行
 東北大学大学院医学系研究科運動学
          永富良一
 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学
          辻 一郎
【目的】都市部住宅地域に在住する高齢者において,自殺念慮,抑うつ症状,うつ病性障害の出現頻度を調査し,抑うつ症状,うつ病性障害が自殺念慮のリスク増大に及ぼす効果を分析した.


【対象と方法】人口100万人以上を擁する大都市内の特定住宅地区において,以下の2段階調査を実施した.(1)同地区在住の70歳以上の全高齢者2,730人に対して案内を配布し,2002年7月〜8月に総合機能評価を実施した.参加者1,198人(43.8%)のうちデータ利用に同意が得られた1,179人(43.2%)に面接によるアンケート調査を実施し,社会人口統計学的指標(性,年齢,教育レベル,家族状況),健康リスク関連指標(既往歴,痛み,主観的健康感,睡眠障害,アルコール関連,日常生活動作能力,認知機能),2項目の質問による死についての反復思考と自殺念慮,30項目のGeriatric Depression Scale(GDS)による抑うつ症状を評価した.(2)GDS 14点以上の高齢者に電話で二次調査を依頼し,同意が得られた者を対象に,2002年9月〜11月に精神科医が訪問し,DSM-Wの大うつ病エピソードの項目と不安症状について調査した.データ解析には単純集計,クロス集計,多重ロジスティック回帰分析を用い,P<0.05を統計学的有意水準とした.


【結果】自殺関連項目とGDSの回答に欠損のない1,170人のうち,Mini-Mental State (MMS)18点以上を条件とする死についての反復思考,自殺念慮の出現頻度は38.3%(95%CI:35.5-41.0),4.4%(3.3-5.6),GDS 11点以上および14点以上を基準とする抑うつ症状の出現頻度は32.9%(30.2-35.6),19.6%(17.3-21.8)であった.単変量解析で複数の社会人口統計学的変数,健康リスク関連変数が死についての反復思考,自殺念慮に関連したが,多変量解析では,抑うつ症状(OR=4.2),睡眠障害(OR=1.6),高血圧症の既往(OR=1.4),白内障の既往(OR=1.4)が死についての反復思考のリスク増大に関連し,抑うつ症状(OR=34.5)のみが自殺念慮のリスク増大に関連した.二次調査を実施した149人のうち,MMS 18点以上を条件とする大うつ病は13人で,出現頻度は1.8%(1.0-2.5)と算出された.年齢,性で補正した多変量解析では,大うつ病(自殺関連項目を除去した基準で評価)(OR=8.2)と不安症状(OR=2.9)がGDS 14+群における自殺念慮のリスク増大に関連した.


【考察】都市部に在住する高齢者において,自殺念慮,大うつ病は相対的にまれであるが,死についての反復思考,抑うつ症状の出現頻度は相対的に高い.自殺ハイリスク例の同定では,抑うつ症状をスクリーニングしたうえで,大うつ病,不安症状,自殺念慮を評価することが重要である.


【結論】都市部に在住する一般高齢者において,GDSで評価される抑うつ症状は自殺念慮の強力な予測因子であり,抑うつ症状を有する高齢者では,大うつ病,不安症状が自殺念慮の重要な予測因子である.

2003/06/18


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