第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−70

血管性痴呆の疫学問題2;Subcortical vascular dementiaの診断基準の検討;田尻プロジェクト(2)

東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野
石井 洋 目黒謙一 山口 智
平山和美 石崎淳一 佐藤真理
橋本竜作 目黒光恵
 東北大学大学院経済学研究科福祉経済設計講座
          関田康慶
【背景と目的】Vascular dementia(VD)の診断基準についてはいまだに統一的な見解がだされていない.VDの診断基準のなかでNINDS-AIREN基準はよく用いられるが,いくつもの異なった病因をもつものをひとつの範疇にまとめているのでそれを用いた研究結果が統一性のないものになっているという批判がある.NINDS-AIREN基準作成メンバーのなかでErkinjunttiらはNINDS-AIREN基準のなかの亜分類としてSubcortical VD(SVD)の診断基準を提唱している.SVDはビンスワンガー病やラクナ状態をひとつの範疇にまとめたもので,リスクファクターや病態像からみて比較的均一な集団であり,研究の対象にしやすいと言う.われわれが行った地域調査(田尻プロジェクト)の結果に対してSVDの診断基準を用い,それに対する考察を加えた.


【方法】地域在住のランダムサンプリングされた高齢者のなかで頭部MRIを実施した対象者で,Clinical dementia rating(CDR)0.5群;119人,CDR 1&2群;32人に対して,(1)神経症候(脳卒中・TIAの既往/神経学的所見/皮質下症状),(2)CDR下位項目(遂行機能/記憶障害/社会生活上の複雑な活動の障害),(3)画像所見(10 mmを越えるPVHまたは5個以上のラクナ梗塞/大梗塞・皮質梗塞の除外),の3つの観点からそれぞれの所見においてSVD基準に部分的に合致する者の割合と,それらを総合してSVDと診断される者の割合をみた.


【結果】神経症候ではCDR 0.5群のなかで39人(33%)・CDR 1&2群のなかで5人(16%),CDR下位項目ではCDR 0.5群のなかで25人(21%)・CDR 1&2群のなかで27人(84%),画像所見ではCDR 0.5群のなかで37人(31%)・CDR 1&2群のなかで16人(50%)がSVDの各所見の基準に合致した.統計学的検討ではCDR 0.5群のなかで神経症候とCDR下位項目は関連性は認めなかったが,画像所見とCDR下位項目は有意な関連性を認めた(c2検定,p<0.001).神経症候・CDR下位項目・画像所見を総合してSVDと診断された者はCDR 0.5群のなかに3人,CDR 1&2群のなかに4人だった.CDR 0.5も含めたVDのなかでSVDは9人中7人であった.


【考察】CDR 0.5群のなかでの検討では神経症候とCDR下位項目の関連性が認められずに画像所見とCDR下位項目との関連性が認められた.このことから神経症候よりも画像所見のほうが感度が高いことが示唆されるが,SVDの画像所見の基準には海馬・海馬傍回・扁桃体の萎縮等のアルツハイマー病の所見等を除外する内容が含まれていないため白質病変を伴うアルツハイマー病等を除外することができず,特異度は低くなっていると考えられる.CDR 0.5を含めたVDのなかでSVDは9人中7人であったことから,VDのなかでも有病率が高い可能性がある.今後は縦断調査を含めた検討を加えながら,VDの診断基準の問題をより整理する必要がある.

2003/06/18


BACK