第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−69

血管性痴呆の疫学問題;1.概念と診断基準:田尻プロジェクト(1)

東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学
目黒謙一 石井 洋 山口 智
平山和美 石崎淳一 佐藤真理
橋本竜作 目黒光恵
 東北大学大学院経済学研究科福祉経済設計講座
          関田康慶
【背景】一昨年の当学会においてわれわれは,宮城県田尻町における65歳以上の高齢者全体における痴呆の有病率は8.5%で,原因としてはNINDS-AIREN基準を用いた場合,従来指摘されていたように血管性痴呆(VD)は多くなく,脳血管障害を伴うアルツハイマー病が多いことを報告した.しかしVDにはいくつかの診断基準があるが,基準間の一致率は良好ではない.その最大の理由は痴呆と因果関係が推定される血管病変の確認の困難さにある.宮城県田尻町においてすでに終了した痴呆の有病率調査において,異なる診断基準でVDと診断された高齢者の有病率を比較し,合わせてMRI所見や神経心理的所見についても検討した.


【対象と方法】対象は1998年開始の有病率調査対象者1,654名中,MRIを施行し痴呆と診断された32名.VDの診断基準はNINDS-AIREN,ADDTC,DSM-IVを用いた.皮質下性VD(Erkinjuntti)については別に報告する.各診断基準を用いた場合のVDの有病率,MRIによる血管病変の所見,神経心理学的所見について,前頭葉機能検査とCognitive Abilities Screening Instrument(CASI)を用い検討を加えた.全例,文書による同意を得ている.


【結果】NINDS-AIRENによるVDの割合は18%で,ADDTCによるIVDは31%であった.DSM-Wを用いた場合,50%であった.最も厳密なNINDS-AIRENを用いた場合,痴呆の原因としてVDは多くなく,脳血管障害を伴うADが多い傾向を認めた.MRI所見の検討では,脳血管障害を伴うADに比較したVDの血管病変の特徴として,被殻以外の基底核領域に両側性に梗塞が認められる場合,もしくは単発でも皮質領域に梗塞が認められる場合であった.神経心理学的には,前頭葉性の遂行機能障害の程度に差を認めた.


【考察】DSM-W,ADDTC,NINDS-AIRENの順番にVDと診断される割合が高い今回の結果は,先行研究に一致する.臨床現場で頻繁に行われるようになったMRI精度の向上は,微小な血管周囲腔の拡大状態や血管障害,白質病変を描出可能にした.しかしその結果,加齢に伴う動脈硬化や病的意義として脱髄性変化も考えられる白質病変の存在をもって,安易にVDという診断をつけてはならない.VD概念について2つの極論が可能である.ひとつはVDはない,というもので脳梗塞による複数の認知機能障害をあえて痴呆の範疇にいれる必要はなく,脳梗塞でいいという考えである.もうひとつは,血管病変の意義を広く強調するものである.それらについて,各診断基準の問題点と,症例を合わせて呈示する.

2003/06/18


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