第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−68

都市部に在住する70歳以上の高齢者の抑うつ症状と脳血管性危険因子との関連

東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野
関  徹  粟田主一 小泉弥生
松岡洋夫
 こだまホスピタル 佐藤宗一郎
 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
寶澤 篤  大森 芳 栗山進一
         辻 一郎
東北大学大学院医学系研究科老年・呼吸器病態学分野 荒井啓行
【研究背景】1997年,AlexopoulosらはMRI所見とは無関係に脳血管性危険因子を有する高齢期のうつ病に対し,clinically defined vascular depressionというカテゴリーを提唱した.

【目的】本研究では,clinically defined vascular depressionの臨床的妥当性を検証するために,1)vascular risk factor(以下VRF)が抑うつ症状と関連するか,2)抑うつ症状を示す高齢者において,VRFを有する群(VD群)とVRFを有さない群(non-VD群)との間で臨床像に差異があるかを都市部に在住する高齢者を対象にcommunity-basedで検討する.

【対象と方法】仙台市宮城野区T地区に在住する70歳以上の高齢者で平成14年7月〜8月に実施した健康診断(総合機能評価)に参加し,研究目的のデータ利用に同意が得られた1,179人に対して,聞き取りによるアンケート調査を実施した.調査項目には,Geriatric Depression Scale(GDS),Mini Mental State(MMS),老研式活動能力指標,19項目の身体疾患の既往歴,主観的健康感,睡眠障害の有無,アルコール関連リスクなどを含む.脳血管障害,高血圧,虚血性心疾患,糖尿病,高脂血症のいずれかの既往のあるものをVRF(+)とし,GDS 14点以上を抑うつ症状(+)群としてVRFが抑うつ症状に及ぼす効果とVD,non-VD間での臨床像の差異をクロス集計による単変量解析と,ロジスティック回帰モデルを用いて分析した.p<0.05を統計学的有意水準とした.


【結果】解析に必要で十分なデータが得られた1,170人を解析対象としたところ,VRF(+)群は752人(M/F=301/451,平均年齢75.5±0.2),VRF(−)群は418人(M/F=184/234,平均年齢76.0±0.2)で,性別,年齢については有意差を認めなかった.GDS14点以上を抑うつ症状(+)と定義すると,VRFは年齢,MMS,性別,教育年数を共変量とする多重ロジスティック回帰分析で抑うつ症状のリスク増大に有意に関連したが,IADL,既往疾患の数,他の疾患群(関節炎,骨粗鬆症,白内障,難聴),主観的健康感を共変量に投入すると,VRFは抑うつ症状のリスク増大に有意な関連を示さなかった.VD群とnon-VD群間では,主観的健康感についてはVD群のほうが有意に不良であったが,MMS,IADL,睡眠障害の有無,アルコールリスクの有無,自殺念慮の有無についてはいずれも有意差を認めなかった.


【考察】VRFは,身体疾患が併存すること,機能障害,主観的健康感の低下を仲介して抑うつ症状に関連するものと考えられた.主観的健康感を除くと,VDとnon-VDの間の臨床像の差異は強調されなかった.ただし,MRI defined vascular depressionについては現在調査中である.

【結論】clinically defined vascular depressionの臨床的妥当性は支持されなかった.

2003/06/18


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