第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−67

スモン患者における痴呆有病率に関する研究

国立療養所南岡山病院臨床研究部・神経内科
田邊康之 早原敏之
 香川医科大学医学部精神神経科  中村光夫
【目的】スモン現状調査個人票の検討では従来,スモンでは白内障,高血圧,骨折の合併頻度は高いが,痴呆の合併頻度が少ないと報告されてきたがサンプルの問題が残されている.近年,キノホルムがA-betaの凝集を抑制することからアルツハイマー病の治療薬になる可能性が欧米では議論されており,スモンと痴呆の関係が別の方向からも関心がもたれている.そこであらためて,われわれはアンケートを中心にスモンにおける痴呆の実態,とくに不受診者における痴呆の推定に関して検討したので報告する.


【方法と対象】Short-Memory Questionnaire(SMQ)と脳の健康度チェックリスト(群馬大学;以下BHC)を岡山県および香川県在住のスモン患者御本人およびその御家族にアンケートとして送付した.本人にはBHCを,家族(あるいは介護者)にはSMQを回答していただいた.健診参加者にはMini-Mental State Examination(MMSE)を施行した(本調査は趣旨を十分に説明し同意を得て行った).


【結果】男性47名,平均70.5歳(56〜90歳).女性126名,平均73歳(49〜91歳)より何らかの回答が得られた.回収率は65.3%.BHCは回答者数166名,回答不能者6名,平均6.452点(0点〜18点)であった.健診受診者・非受診者で比較したが分布にあまり差は認められなかった.非受診者は107名,平均年齢72.7歳(56-88),BHC平均点は6.486点であった.一方,受診者は59名,平均年齢69.3歳(49-91),BHC平均点は6.39点であり,両群間でBHCのt検定を行ったがp=0.8716で有意差は認められなかった.SMQは回答者数127名,平均39.434(4点〜46点)であった.39点以下が痴呆の可能性があるが,聞き取り調査より臨床的に痴呆と診断したのはSMQ 4点から6点の6人であった.痴呆と診断された6名は全員非受診者であった.非受診者は81名,平均年齢73.3歳(56-90),SMQ平均点は38.69点であった.一方,受診者は46名,平均年齢69.2歳(49-91),SMQ平均点は41.95点であり,両群間でSMQのt検定を行ったがp=0.0491で有意差を認めた.BHCとSMQの結果は必ずしもMMSEと相関しておらず,BHCが5点以上の例やSMQが39点以下の例でも痴呆者はほとんど認めなかった.


【考察】健診受診者のなかに痴呆者は存在せず,身体的精神的レベルが比較的良好な一群が健診に参加し,一方で健診不受診者のなかに痴呆者が含まれている可能性がある.スモン患者の精神・身体症状のため,痴呆症状とは無関係にBHCは通常より高め,SMQは通常より低めにでた可能性が示唆される.したがって,スクリーニングに適切な調査項目の設定,訪問健診の充実により悉皆調査に近づける努力が,スモンにおける痴呆の実態の正確な把握のために必要と考えられた.

2003/06/18


BACK