第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−66

痴呆専門病院における予後および死因の検討

飯能好友病院・日本医科大学精神医学教室
          村田雄一
 飯能好友病院・日本医科大学老人科  倉辻公美
飯能好友病院 木川暁子 木川好章
 日本医科大学精神医学教室
鈴木英朗 竹澤健司 遠藤俊吉
 日本医科大学老人科
鈴木達也 中野博司 大庭建三
【目的】痴呆性老人の予後や死因についての疫学調査はいまだ十分になされていない.いくつかの施設における報告があるが,その結果は母集団,施設の内容によって差異が認められる.痴呆専門病院における調査は少ないため,当院に入院した痴呆性老人の予後および死因の分析を試みた.


【対象】平成12年1月〜12月の調査期間に当院退院した患者217名のうち痴呆性疾患の診断がついた173名の予後および死因を検討した.


【方法】入院診療録から入院時の診断名,痴呆の重症度(長谷川式簡易知能スケール,柄澤式老人知能の臨床的判定基準などの結果よりClinical Dementia Rating(CDR)を用いた),罹病期間,退院後の転帰および直接死因を調査した.


【結果】退院後の転帰は28例が自宅退院,57例が施設入所,31例が転院,57例が死亡退院であった.死亡退院57名(平均年齢81.2±6.9歳)の内訳は男性36名,女性21名であった.診断名は,アルツハイマー型痴呆(SDAT)28例(平均年齢81.0±7.6歳),脳血管性痴呆(VD)25例(平均年齢79.9±6.5歳),混合型痴呆4例(平均年齢85.0±4.2歳)であった.入院時のHDS-Rの得点は,SDAT 5.2±5.7点,VD 7.6±6.6点であった.死亡退院57名の直接死因は,肺炎23例(40.4%),心疾患11例(19.3%),悪性腫瘍9例(15.8%),血液・骨髄疾患4例(7.0%),腎疾患4例(7.0%),脳血管疾患3例(5.3%),肝・胆嚢疾患2例(3.5%),誤嚥1例(1.7%)であった.SDATでは,肺炎10例(35.7%),悪性腫瘍7例(25.0%),心疾患6例(21.4%),腎疾患2例(7.1%),血液・骨髄疾患1例(3.6%),肝・胆嚢疾患1例(3.6%),誤嚥1例(3.6%)であった.VDでは,肺炎9例(36.0%),心疾患5例(20.0%),脳血管疾患3例(12.0%),血液・骨髄疾患3例(12.0%),悪性腫瘍2例(8.0%),腎疾患2例(8.0%),肝・胆嚢疾患1例(4.0%)であった.CDRにより痴呆の重症度を分けたところ,中等度19例(平均年齢81.3±7.5歳),重度38例(平均年齢81.2±6.8歳)となった.死因の順位はともに第一位が肺炎(中等度47.4%,重度36.8%),第二位が心疾患(中等度15.8%,重度21.1%)であった.死亡退院57名の痴呆の診断がついてからの罹病期間は48.3±38.2か月であった.SDAT 55.4±50.1か月,VD 39.6±17.2か月であった.


【考察】肺炎が死因の第一位(40.4%)であったことは,これまでの痴呆性老人の死因に関する報告と同様の結果であった.悪性腫瘍が第三位(15.8%,SDATでは第二位)であったが,この15.8%はいままでの報告で最も高い割合であった.痴呆の重症度で中等度と重度に分けて死因を分析した結果はどちらも第一位が肺炎,第二位が心疾患であり差異は認められなかった.痴呆の罹病期間はSDAT 4.6年(55.4か月),VD 3.3年(39.6か月)であり,これまでの報告のうち,罹病期間が短い報告とほぼ同様であった.これは痴呆専門病院として当院は,幻覚,妄想,徘徊などの精神症状が認められる痴呆患者に加えて,悪性腫瘍や糖尿病などの合併症をもつ痴呆患者を多く受け入れていることが影響していると考えた.

2003/06/18


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