第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U2−65

高齢者の認知機能に対する睡眠健康の影響

国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健研究室
  白川修一郎 水野 康  駒田陽子
 筑波大学臨床医学系精神医学
片野綱大  朝田 隆
 広島国際大学人間環境学部 田中秀樹
 吉岡リハビリテーションクリニック 松岡恵子
 高齢者の睡眠障害の発生頻度は本邦でもほぼ30%を超えると推定されている.夜間睡眠が分断され日中に強い眠気の混入する睡眠時呼吸障害の患者では,注意(attention)機能,短期・中期記憶が障害されるとする報告が多い.長期不眠患者で記憶,集中力,課題遂行力や人間関係を楽しむ能力に障害がみられたとの報告もある.さらに,長期不眠高齢患者では,社会に対する協調性の低下や自己の生活に関する満足度などの意欲が低下することが判明している.
 近年,痴呆性疾患の前駆症状と考えられるmild cognitive impairment(MCI)に注目が集まっている.記憶を主とする認知機能の障害がMCIの主症状であるが,症状の発現は安定していないという特徴をもつ.
 本研究は,このMCIと睡眠健康の関係に焦点をあて,睡眠健康が高齢者の認知機能に及ぼす影響を検討することを目的とした.


【対象と方法】研究の内容を十分に説明し同意の得られた茨城県某町に居住するMCI 42名を含む609名の高齢者(男性267名,女性342名,年齢72.8±5.2歳)を対象として,標準化された睡眠健康調査票を用い睡眠健康調査を行い,睡眠健康危険度得点を算出した.睡眠健康調査票を構成する5因子のうちで,睡眠維持困難性因子,入眠困難性因子得点が0.8 SD以上の悪化を示す高齢者をpoor sleeper,それ以外をgood sleeperに分類し,両群から認知機能検査について同意の得られた者を対象として,Motor Task,Letter-Position Matching Task,Category Cued Recall,Clock Drawing,Word Fluency,Similarityの各検査を行った.現在,男女比,年齢,教育年数をマッチさせランダムにサンプリングしたpoor sleeper 30名(74.3±5.3歳),good sleeper 50名(72.7±4.2歳)について解析が終了した.運動機能に関しては1.5 SD以下の者は,解析の対象より除外した.


【結果と考察】睡眠維持困難あるいは入眠困難が認められた者は,非MCI対象者25.8%,MCI対象者35.7%であった.国際睡眠障害分類基準(ICSD)によりむずむず脚症候群と確定診断された者は2.3%,睡眠時無呼吸症候群の可能性のある者は2.1%であった.認知機能に関しては,poor sleeperでLetter-Position Matching Taskの単一課題(p=0.0095),平行課題(p=0.0240)とも正答数が有意に低下していた.また,Category Cued Recal lテストで,正答記憶再生数1SD以下の者の割合がpoor sleeperで多い傾向(p=0.0555)を示した.これらの結果は,睡眠健康の状態が高齢者の認知機能に影響を及ぼしMCI診断を左右する可能性を示している.現在,例数を追加中であり,睡眠の介入改善の結果も合わせ報告する予定である.

2003/06/18


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