【目的】痴呆の生命予後について調査し,予後に影響を与える要因を明らかにする目的で,老人性痴呆疾患治療病棟入院患者の生命予後を調査した.
【対象と方法】平成7年4月から平成10年3月までの3年間に,老人性痴呆疾患治療病棟に痴呆の診断で新入院した患者272名(入院時年齢=79.2±8.3,男/女=110/162,AD/VD/OD=130/112/30,MMSE=13.2±6.8,N-ADL=31.4±11.6)を対象とした.最長7年の追跡期間で,診療録および死亡診断書,家族への文書または電話での問い合わせ,退院先への照会によって,生命予後を調査した.対象者272名のうち,平成14年7月の時点で生死が判明したものは215名(79%),生死が不明のものは57名(21%)であった.生死が判明したもの215名については,生存者(70名)と死亡者(145名)の臨床像の違いを検討した.また,対象者272名(打ち切り127名,非打ち切り145名)の生存分析により,痴呆の生命予後に影響を与える要因を検討した.
【結果】1.死因:死亡者145名の死因は,感染症53(36.6%,うち50名は肺炎),心疾患28(19.3%),悪性新生物16(11.0%),老衰8(5.5%),脳血管障害7(4.8%),その他10(6.9%),不明23(15.9%)であった.
2.生存者(70)と死亡者(145)の臨床像の違い:差があったのは,性別死亡率(男=77.8%,女=60.0%),身体合併症別死亡率(有=77.8%,無=58.6%),退院先別死亡率(病院=86.3%,自宅=61.4%,施設=47.4%)であった.
3.平均生存期間(Kaplan-Meier法):差があったのは,性別(男性=1100±88日,女性=1529±79日),身体合併症(有=924±82日,無=1659±72日),退院先(病院=813±81日,自宅=1581±114日,施設=1830±84日)であった.
4.5年生存率(生命保険数理法):差があったのは,性別(男性=0.249,女性=0.510),身体合併症(有=0.251,無=0.518),退院先(病院=0.171,自宅=0.462,施設=0.632)であった.
5.生命予後に影響を与える要因(Cox比例ハザ−ドモデル):有意な共変量は,年齢(P=0.0010,RR=1.036,95%CI=1.014-1.058),性:女性(P=0.0221,RR=0.672,95%CI=0.478-0.945),退院先:施設(P=<0.0001,RR=0.236,95%CI=0.156-0.358)であった.
【結論】1.痴呆病棟新入院患者の予後を調査し,最長7年の追跡期間で,死亡145名,生存70名,不明57名であった.
2.死因順位は,感染症(36.6%),心疾患(19.3%),悪性新生物(11.0%),老衰(5.5%),脳血管疾患(4.8%)の順であった.
3.比例ハザ−ドモデルによる生存分析では,年齢,性,退院先が生命予後の危険因子であった.
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